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東工大ニュース

体内時計が安定して機能するメカニズムを新たに提案

体積変化が温度変化の影響を相殺している可能性

公開日:2023.01.25

要点

  • 体内時計が温度変化に対して一定のリズムを保てる理由を説明する新たなメカニズムを提案。
  • 周期的に色変化するゲルを体内時計を持つ細胞に見立て、提唱したメカニズムが実現可能であることを実証。
  • 体内時計の温度補償性が普遍的に見られる理由の説明となることに期待。

概要

東京工業大学 国際先駆研究機構 リビングシステムズ材料学研究拠点の山田雄平特任助教と工学院 機械系の前田真吾教授、九州大学大学院 芸術工学研究院 未来共生デザイン部門の伊藤浩史准教授らの研究チームは、化学反応を利用した疑似的な体内時計[用語1]を考え、そのモデル化および理論解析を通じて、生物学の大きな問題の1つである体内時計の温度補償性[用語2]を説明する新しいメカニズムを提案した。

多くの生物が共通して約24時間周期のリズムを持っている(体内時計)ことが知られているが、周囲の温度が変化しても体内時計のリズムが乱れないメカニズム(温度補償性)は明確にはわかっていない。これまでの研究では、特殊な反応機構により温度補償性が保たれていると考えられていたが、本研究では細胞の体積変化が内部の化学反応に影響を及ぼしているのではないかと考えた。実際に、周期的に色が変わるゲルを体内時計を有する細胞に見立て、温度変化?体積変化および色変化周期の関係を調べた。その結果、温度による色変化周期の変動を、体積変化による化学反応制御によって抑えることができることが示された。分子などの物質の変化ではなく、力学的な変化によって体内時計の温度補償性が保たれているというアイデアは一般的ではなかったが、この機構が他の生命現象の制御に関わっている可能性もあり、多くの未解決課題を解く鍵になることが期待される。

本研究成果は2022年12月27日付の「Scientific Reports」にオンライン掲載された。

背景

体内時計は、バクテリアからほ乳類、植物まで多くの生物に共通して見られる約24時間周期のリズムを指しており、身近な例としては、人間の睡眠覚醒のサイクルや、植物の花が特定の時間に咲くことなどが挙げられる。

体内時計にかかわる生体分子?遺伝子が生物間で共有されていないにもかかわらず、不思議なことに3つの性質を共通して持っていることが指摘されてきた。1つ目は、日光などの外部刺激がない一定の環境下でも体内時計が持続することであり、これは生物が組織内にリズムを作り出す機構を持つことを示している。2つ目は、体内時計は日光や温度変化などの周期的な外部刺激とリズムを合わせることである。これにより、生物が環境の変化に合わせてリズムを調整することを可能としている。3つ目は、温度が変化しても体内時計の周期が一定に保たれることで、この性質は温度補償性と呼ばれる。この温度補償性は生物が季節や環境の変化に適応するために重要な性質と言われている。

体内時計を含めた生命現象は無数の生化学反応の組み合わせから成り立っているが、化学反応の起こる速度は温度変化に対して敏感であるため、体内時計の温度補償性を実現するには何らかの仕掛けが必要となる。これまでの研究においても、体内時計の温度補償性を説明するためのメカニズムが提唱されており、反応に関わる物質の細かな調整やリズムを保つための特殊な反応機構が必要だと考えられてきた。本研究では、そういった特別な機構がなくても、温度に依存して細胞が変形することで周期の温度補償を実現できる可能性があることを理論と実験から示した。

研究成果

本研究ではベロウゾフ?ジャボチンスキー(BZ)反応[用語3]と呼ばれる化学反応を用い、疑似的な体内時計を持つ“細胞”を作成した(図1)。BZ反応は周期的に色の変化が起きる化学反応であり、反応に必要な物質を高分子と結合させることで、色が周期的に変化するゲル(BZゲル)を作ることができる。BZゲルの色変化のリズムの周期は、何も工夫をしない場合は温度変化に対し敏感に変化してしまうが、本研究チームはBZゲルの数理モデルの解析により、BZゲルの体積が温度変化する場合には色変化のリズム周期が保たれる(温度補償が実現される)可能性があることを発見した。より具体的には、温度が上がると化学反応の速度は上がり色変化のリズムの周期は短くなるが、同時に体積が収縮して反応に必要な物質がゲルの外部に出ていく場合にはリズムの周期が長くなる作用が働き、それらがキャンセルし合うことで一定の周期を保てることが示唆された。

本研究チームはこの理論に基づき、温度上昇に対して収縮する特徴を持つ高分子(PNIPAAm)を用いて温度応答性BZゲルを実際に作成し、周期が温度に対してどのように変化するか実験を行った(図2)。横軸が温度T、縦軸が周期Δτを表し、温度応答性BZゲルの場合と、対照実験として温度変化により体積が変わらない高分子(PAAm)を用いた非温度応答性BZゲルの場合を示している。PAAmを用いたゲルでは温度上昇に伴い急激にリズムの周期が短くなっているのに対し、PNIPAAmを用いたゲルでは実験を行った15℃から30℃の範囲で周期の変化が抑えられていること、つまり温度補償性を示していることが分かる。

図1 BZゲルの周期変化のスナップショット。この例では約1,000秒おきに橙色と緑色を周期的に行き来する。

図1. BZゲルの周期変化のスナップショット。この例では約1,000秒おきに橙色と緑色を周期的に行き来する。

図2 温度変化させた場合のBZゲルが示す色変化の周期。

図2. 温度変化させた場合のBZゲルが示す色変化の周期。

社会的インパクト

本研究ではBZ反応を例にしてメカニズムの説明を行ったが、根幹にある体積変化を用いたリズムの温度補償というアイデアは、生物の体内時計を含むさまざまな現象の説明に適用し得るものと言える。これまでの体内時計の研究では、温度補償メカニズムは特殊な反応機構によって実現されていると考えるのが主流だったが、本研究は反応の起こる場である細胞の変形が重要なファクターになっている可能性を提示した。このような「メカニズムが身体に埋め込まれている」という考え方は、生物学ではあまり一般的ではなかったが、体内時計の温度補償性はもちろん、他の多くの未解決問題を解く鍵になるのではないかと考えられる。

今後の展開

これまでの体内時計の研究では、細胞の体積変化やそれに応じた生体分子の濃度変化に注目したリズムのデータは取られてこなかったため、まずは現実の生物が本研究で示したメカニズムをどの程度利用しているのかを明らかにしていく必要がある。一方でいくつかの先行研究では、実際に細胞の体積が温度依存性を示すことが報告されており、生物がそのような「身体の変化」をどのように利用しているかは、これからの生物学の大きなテーマになるのではないかと考えている。

付記

本研究はJSPS科研費新学術領域研究「ソフトロボット学」(JP18H05473, JP18H05474)の助成を受けて実施された。

用語説明

[用語1] 体内時計 : 多くの生き物に見られる約24時間周期のリズム。生物の生存や繁殖などに関わる重要な機能の1つ。概日時計や概日リズムとも呼ばれる。

[用語2] 温度補償性 : 体内時計が温度によらず一定の周期を保つ性質。ほとんどの生体内の化学反応は温度変化に伴って速度が変化するが、体内時計は例外的に温度を変えても時計の針の速度が変化しない。

[用語3] ベロウゾフ?ジャボチンスキー(BZ)反応 : 周期的に物質の濃度が変化する化学反応の一種。濃度変化に追従して色の周期変化が起きる。

論文情報

掲載誌 :
Scientific Reports
論文タイトル :
Artificial temperature-compensated biological clock using temperature-sensitive Belousov-Zhabotinsky gels
著者 :
Yuhei Yamada, Hiroshi Ito, Shingo Maeda
DOI :

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